「人は他人を批判すべきではない」
これは本当でしょうか?
インターネットが普及し、人々の多くがSNSでつながり、私たちは自分を表現する場、自分の意見を主張する場を得ました。
そこでは好きなことを好きなように表現することができます。
この文章も、私が誰の許可を得ることもなく、誰に推敲してもらうこともなく、ただ勝手に書いているものです。
ブログサイトやSNSの運営会社から投稿を削除されることはありますが、削除されるまでは自分の主張をネット上に載せ、多くの人に見てもらうことができます。
しかし、近年ではネットの特性を利用した誹謗中傷が問題になっています。
インターネットの匿名性は、簡単に私たちを批評家にしてくれます。
炎上して問題になれば、自分の投稿も投稿したアカウントも簡単に削除することもできる。
(たとえ投稿を消したとしてもサーバー上に詳細なログが残っているため、実際には誰が投稿したのかは特定できますが)
リスクも負わず、説明責任もない。
面と向かって伝えるわけではないので、その場で反論もされない。
そんな中で、日頃のストレスや不満のはけ口として、
時には全く関係のない出来事の憂さ晴らしで、
煽られてついつい、
なんなら、ただ楽しいからとか、皆がやっているからとかいうだけで誹謗中傷とは思わず投稿する人もいるのでしょう。
インターネット以前も手紙や電話で批判やお叱りを受けることはありました。
しかし、批判の数という点では比べ物になりません。
その点で、ネット上での誹謗中傷は問題となり得ます。
「人は他人を批判すべきではない」
道徳的観念の是非を考えなければ、このことは本当のことではないと言えそうです。
多くの人が簡単に誰かを批判できる状況が実際にはあるからです。
では、「人は他人を批判するものだ」とした場合に、私たちはどのようにこの現実を受け止めれば良いのでしょうか。
理想と現実のズレから生まれる不快感
私たちが相手や出来事に不快感を覚えるとき、そこには理想と現実のギャップが存在しています。
自分の理想、つまり相手や出来事に対する期待値を私たちは誰もが持っています。
現実の世界がその期待値通り、もしくは期待値を上回っていれば、私たちは何も不快感を覚えません。
他人の言動に対してイライラすることもありませんし、世の中の出来事を見て憤ったり悲観したりすることもありません。
しかし、現実が自分の期待値を下回ると、途端に苛立ちを覚えたり悲嘆に暮れたりします。
そして、意識するしないに関わらず「現実とはこうあるべきだ」という考えが浮んできます。
「すべき」によって離れる現実世界
しかし、「現実とはこうあるべきだ」という考えは、私たちをますます現実の世界から引き離します。
たとえば、子供にもっと勉強をしなさいと言う場合、そこには自分の中に
「うちの子供は今よりもっと勉強して成績を上げるべきだ」
という考えがあるでしょう。
もちろんそれは子供の将来を想ってのことであり、愛する我が子を想ってのことですが、それと同時に、もっと勉強をして成績を上げた理想の我が子も頭の中にいるのです。
しかし、現実はどうでしょうか。
勉強をしなさいと言えるのは、目の前には満足に勉強しない我が子がいるからです。
もう一度言います。
頭の中にいる理想の我が子と、目の前にいる勉強をしない我が子のどちらが現実でしょうか?
これは子供に対してだけではなく、会社の上司や同僚や部下、家族や友人、そしてSNSで好き勝手に発言する知らない人たちにも言えることです。
世の中に不満が多いということは、現実をありのままに見られていないのかもしれません。
ありのままの現実を見るためには、理想を創り出しているのは自分自身であることに気づく必要があります。
新たに部下になった人が周りよりも高い給与をもらっていた場合、これだけの給与をもらっているのだから、これくらいできて当たり前という考えが浮かぶかもしれません。
しかし、実際にその部下の働きが期待値以下だったとき、上司は”自分の”理想とは違う部下に対して不満を抱きます。
理想と現実にギャップが生まれるからです。
しかし、現実は現実です。今時点の現実は今時点では変えようがありません。
そして、理想を創り出しているのは他でもない不満を抱いている上司自身です。
「~すべき」と思ったとき、その考えは現実とはズレた理想を見ています。
そしてそれに気づけたとき、私たちはあるがままの現実を探究することができるようになります。
ありのままの現実を捉えることから
あるがままの現実を探究することで、理想と現実のギャップが解消され、出来事に対する不快感が解消されていきます。
今、目の前で起きている現実を変えることはできません。
そして、あなたの理想を捨てる必要もありません。
「どうしてできないんだ」とそのギャップに憤るのではなく、今はできていないのが現実なのだと思えれば、それで良いのです。
勉強をしない子供も、評価に満たない部下も、不平不満に歓喜するネット民も、その他あなたが不快に感じる出来事も、そちらの方が現実なのです。
およそあらゆる対人関係のトラブルは、他者の課題に土足で踏み込むことーあるいは自分の課題に土足で踏み込まれることーによって引き起こされます。
『嫌われる勇気』p.140-l.16
子供の勉強時間も、部下の低いパフォーマンスも他者の課題であり、あなたの課題ではないのです。
そういうものかと現実をそのまま捉えることで、自分で作り上げたギャップに苦しむことは少なくなるでしょう。
現実をありのままに見た上で、その現実に対してどう接していくかを決めれば良いのです。
現実をそのまま受け入れる必要は必ずしもありません。
子供のしつけや部下の育成など、親や上司としてやらなければならないことはあります。
しかし、正しい期待値を持つことと、それが原因で不快な気持ちになることは別です。
まずはギャップのない現実を「現在地」として見た上で、そこにとどまりたいのか、その場から離れて目指すべき所に向けて歩みを進めるのか決めましょう。
どちらを選ぶのもあなたの自由です。
理想を思い描くのが自由だったように、現実をどうしたいのかも自由です。
もし、ありのままの現実を見られたとき、私たちが不快に思っている状況が自然と解消されていく場合があります。
私たちの多くはありのままに現実を見られていません。
同様に、私達自身も周りの人からありのままに見てもらえていません。
もし、ありのままのあなたを認めてくれる人がいたらどうでしょうか。
その人に好意を抱いたり、信頼感を寄せたりすると思いますし、その人から嫌われるようなことわざわざしようと思わないでしょう。
その人は貴重な存在になるのですから。
周りの人も同じです。
あなたが誰かをありのままに見てあげたら、その人もあなたに嫌われるようなことはしなくなります。
多くの人がありのままに見てもらえていない中、あなたという存在がとても大切な存在になるのですから。
あなただけの理想を止める
仮に現実を自分の理想に近づけようと思った場合は、その考えを自分の頭の中から外に出しましょう。
子供や部下を育成しようと思った場合でも、相手にどうなってほしいのかを明確に伝えられている人は、実は少ないのではと思います。
「勉強しなさい」「もっと真剣に仕事をしろ」と言われても、あなたの理想を知らない相手は、何をどれくらい勉強したら良いのか、どう働いたら真剣に働いたと言えるのかがわからないのです。
なぜなら、相手は相手の理想像の中で一生懸命に生きているからです。
相手にとっては、今の現実が当たり前で、なぜあなたがそんなに不満をぶつけてくるのかわからないのです。
人はそれぞれ、その時々で最善を尽くしているものです。
上手くできていないと感じるのは、あなたの基準に照らし合わせて上手くできていないと判断しているあなただけなのです。
なので、あなたの理想像をあなただけのものではなく、相手と共通のものにすることから始めましょう。
理想像を共有する過程で、あなたが見ている現実がもっとクリアになるかもしれません。
できていないと思っていたことが、実はできていたということに気づくかもしれません。
相手と理想像を合わせることは、あなたが元々描いていた理想像とかけ離れることかもしれません。
しかし、それはあなたと相手が同じ方向を見た時に見えてきた第3の案とも言えるのです。
Win-Winは、第3の案の存在を信じることである。あなたのやり方でもなければ、私のやり方でもない、もっとよい方法、もっとレベルの高い方法だ。
『7つの習慣』p.289-l.17
自分だけが見ていた現実と理想像を相手と一緒に見て認識を合わせることで、不満の原因だった理想が一緒に目指す目標となります。
しかし、自分ではどうにもならない現実の場合は、その場から離れましょう。
SNSでの批判や、いじめ、ハラスメントといった、自分ではどうにもならないことや、対応すると状況を悪化させてしまうようなものもあります。
SNSをやらなければ生きていけないわけではありません。
今のコミュニティや人間関係の中にいなければ生きていけないわけではありません。
一時的にでもその場から離れられるのであれば、離れてしまうのが状況を悪化させないためにも良いでしょう。
もちろん、親子関係や学校など、簡単には断ち切れないものもあります。
児童相談所やフリースクールなど実際にはさまざまな選択肢はありますが、そこに踏み切れない場合も多いでしょう。
その場合は、誰かに相談しましょう。
自分一人で悩んでいてもネガティブな考えに支配されてしまい現実を捉えきれません。
信頼できる人がいれば、その人に自分の頭の中を話してみましょう。
もし、相談できる人がいなければ「日本いのちの電話」などに相談しましょう。
【相談窓口】
「日本いのちの電話」
ナビダイヤル 0570(783)556
午前10時~午後10時
フリーダイヤル 0120(783)556
毎日:午後4時~同9時
毎月10日:午前8時~翌日午前8時
他人に相談する勇気が持てなければ「心理的危機対応プラン(PCOP)」を行ってみてください。
CRP-user_v2 (stopijime.jp)
また、以前紹介したぐるぐるワークもネガティブな思考の軽減になります。

まずは、あなたの頭の中にあることを外に出すことが大事になります。
「人は他人を批判すべきではない」
これは本当でしょうか?
現実とはかけ離れた理想を相手に押し付けている限り、私たちは自由にはなれません。
世界が私たちを生きづらくしているのではなく、私たちが世界を生きづらくしているのです。
「~すべき」と思ったとき、現実はその反対側にあります。
あなたの理想を基準とするのではなく、今の現実を基準にしましょう。
期待値を下回った現実ではなく、より高みを目指すための現在地としましょう。
道徳観念を振りかざしても、ルールを説いても、目の前で起こっている現実は変わりません。
あなただけが疲弊をしていくだけです。
「~すべき」と考えることを手放しましょう。
変わらない現実を、ありのままに見られたとき、現実は変わり始めますので。